28日付けでAppleはBeats Electronics社の買収を正式に発表しました。買収金額はApple史上で最大となり、噂が出てきた時点で大きな話題となっていました。Appleは何を目的にBeats社を買収したのか、それが話題の中心でしたが、「高級ヘッドフォンの技術を手に入れた」「いやBeatsブランドが欲しかったのでは?」「音楽のストリーミング配信事業への橋頭堡を買ったのだ」と色々な説が出ています。
Apple Online Storeで販売されるBeatsのヘッドフォン |
しかし技術、ブランド、ストリーミング配信、どれもAppleの地力はBeats社を上回っており、買収に3000億円を投資する価値があるかどうか微妙な部分ではあります。技術、ブランド、音楽のストリーミング配信は確かに重要であり、Appleが持っていないものをBeats社が持っていたのも事実です。しかしこれだけを手に入れるのにBeats社買収が最適なのかは疑問です。
今回の買収で僕が一番重要だと感じたのは買収を解説した記事「Apple、Beats Electronicsを買収 – IovineとDr. Dreも参画」の最後にある「起業家としてBeatsを5年でトップブランドかつ、飽和している市場の中で非常に高い収益性を確保するビジネスに育て上げ、音楽業界で重要なポジションを占めているIovine氏とDr. Dreに、音楽だけでなくテレビや映画を含むレッドオーシャンと化したコンテンツ業界に、新たな製品やサービスを旅立たせる準備を、Appleは求めているのではないでしょうか」の部分です。
Appleの事業でiPod部門、音楽配信部門は成長から取り残されています。またiPhoneもこれまでのようにAppleが市場をリードするというより、市場の要求にAppleが合わせる形へと変化しています。このような成長力が弱まった事業分野、主導権を失いつつある分野に、Appleは新たな価値観を持ち込むことで企業としての成長を託していると考えます。AppleはBeats社から迎えた二人の人材を「音楽業界で成功した人」ではなく「成熟市場でも成長できる新たな市場を創った人」と評価し、彼らが経営に加わることで、Appleが直面するであろう成長力鈍化という課題に対処できると考えているのではないでしょうか。そこには3000億円以上の価値があるのは明白です。