昨日、台風迫る中六本木で行われたiFixit(オープンソースの修理マニュアルを公開する企業) CEO カイル・ウィーンズ氏のトークイベントに参加してきました。iFixitはiPhoneをはじめとしたApple製品の分解で有名ですが、その活動はそれだけにとどまっていません。WIRED.jpが主催していたこともあり、いい意味で意識の高い参加者が多かったのですが、僕は「一人の消費者」としての興味で参加してきました。
修理とは高貴な行為である
「Repair is noble」というキーワードに惹かれて参加したイベントですが、非常に興味深く、示唆に富んだ内容だったと思います。トークイベント全体の流れは「MACお宝鑑定団Blog」で紹介されている(大ファンのブログのオーナーが斜め後ろに座っているとは知りませんでした)ので僕は気になった発言をピックアップしたいと思います。
「修理は愛着を生む」
カイル・ウィーンズ氏の修理への情熱の大部分は「愛着」と言う感情で説明できそうな感じでした。氏は製品やメーカーへの愛着は修理しながら長く使うことで生まれるとの持論を強く持たれていました。愛着を持つユーザーを増やすことは、企業側がどれだけ頑張っても作り上げることができないブランド力の源泉になる(故に修理が簡単にできることが重要)と力説していたのが印象的でした。
「巻き込め」
しかし一つの製品を修理しながら長く使うことで、メーカーの売り上げが落ちるのでは?と言う懸念は常につきまといます。実際にそのことを懸念しているメーカーの方も氏にこのことを質問していました。この質問に対してカイル・ウィーンズ氏は、環境問題への対応やブランドイメージと言う側面からアプローチして、それら担当部署を巻き込んで製品を作り上げていけばいいと回答していました。
この回答は確かに理想論ではありますが、彼の行動はまさに「巻き込め」であり、ワシントンだけでなくEUにも積極的に働きかけて修理の重要性を唱える活動を続けています。このトークイベントや来日も彼の活動の一部なのでしょう。ちなみにアメリカでSIMロック解除を合法化する法案の草案作成には彼も参加したとのことでした。法案の作成までコミットして自身の主義を主張していく姿には憧れに近い感情を抱いてしまいました。
「合法と非合法の間を綱渡り」
米国や欧州政府に対して合法的なアプローチをする彼も、決して合法の範囲だけで活動しているわけではありません。解釈としては「非合法」とされる行為もiFixitは行なっています。その一端もトークイベントで明かされていましたが、ここでは詳細を書くことは控えます。ただ自身の信念が「非合法」となるなら、法律を変えるように働きかける、裁判で争うという姿勢がいかにもアメリカ人っぽく感じる部分でした。日本人とは法律への接し方の違いがあるとも感じました。
「修理する権利へのこだわり」
「修理する権利」とは聞き慣れない言葉ですが、実際にアメリカでは12の州でこの権利について議会で法案が審議されています。現在、ほとんどの電子機器メーカーは修理マニュアルの全てを公開していません。メーカー側は未熟な修理によって事故が起きることを懸念しているとされますが、カイル・ウィーンズ氏はその主張を一蹴します。彼らはメンテナンスで儲けたいだけだ、と。そして全ての製品の所有者には修理する権利があると訴えます。
おそらくこの権利はそう遠くない将来、米国や欧州で一般的な概念になると思われます。その時、メーカーは新たな価値観の下で事業を構築する必要に迫られるでしょう。その価値観の転換の中心にいる一人がカイル・ウィーンズ氏だと思います。それだけ刺激的なトークイベントでした。